にあくまでエチケットをつくす志。凛々しくも涙ぐましい天晴《あっぱ》れ、けなげな振舞い。
代って純情娘の日本代表、乙羽信子嬢に、これ又、単刀直入。これは甚しく正直だ。
「ええ、とても、苦しいのです」
困りきった笑顔が可憐そのものである。
「今後も空の旅を利用なさいますか」
「こう苦しくては、ちょッと……」
これは又、爽やかなほど正直である。表裏一体をなし、さすがに日本娘の両代表だけの事はある。
しかし誰よりも音をあげたのは福田画伯であった
「僕はですね。ヘタな飛行家よりも飛行時間が多いですよ。しかしこんな苦しい旅は始めてだ。大型機のせいですよ」
結論、簡単をきわめる。実際は旋回廿分の東京見物が悪かったようだ。
酔わない人物、ただ一人。巨人軍の青田君。彼は特攻隊の飛行士だったそうだ。飛行時間二百時間の由、テレながら答える。腕に自信がないらしい。しかし僕のために説明の労をとり、空からの観察の良き指南役であった。今の高度三千六百ぐらい。青田君は教えてくれる。読売の人、計器を見て戻り、
「青田君の目測、ピタリですよ」
と、呆れた顔で私にささやく。
三原山の上空をとぶ。火口をかこん
前へ
次へ
全6ページ中3ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
坂口 安吾 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング