で砂漠がクッキリと、二ツの色と形が美しく面白い。西洋菓子のよう。砂漠の西方へ三本半の真ッ黒い溶岩の流出が見える。もう煙はない。富士が見える。頭だけ雪。平凡な富士だ。真上をとぶと面白い形であろうが、沖合遥かに見れば地上から見るのと同じ形の富士である。天城を越える。三原山のように砂漠がないから、冬の山々はたゞ単色のヒダが無限にひろがっているだけ、真上からでは下の山々にはヒダだけで高さが存在しない。
静岡、清水をすぎて雲海の上へでる。青空の深さ。太陽の白光の強烈なきらめき。熱気が顔にやきつく。高度四千二百。これより動揺皆無。
カクテル・パーテーがはじまる、エアガールがニコニコと往復多忙である。スカアチ・ソーダ(スコッチ・ハイボール)の氷の冷めたさが沁みるようだ。にわかに吐き気が治って、酒の酔いとなる。死人が墓石を倒して踊り出たようなものだ。奈良から晴れた空を急降下、伊丹飛行場につく。耳を痛がる人が多い。急に増圧のせいだ。着陸卅分後まだ耳が聞えないとこぼす人もいる。私は潜水になれたせいか、全く耳に変化を感じなかった。
岸田兵庫県知事、ミス大阪等出迎え多勢である。伊丹ときいて、福田画伯と私
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