て落ちそうなショックをうける。飛上して三分目に、すでに吐き気に苦しむ。東京上空旋回廿分。高度あげつつ横浜から横須賀へ。山上にまるい大穴が花弁型にたくさん有るのは旧砲台の跡らしい。東京では皇居を目近に見下してきた。日本の空にはタブーがなくなったのである。
海上へでる。すでに高度三千。海は一面に紺のチリメンの光りかがやくシワである。黒い点々は雲の影。読売の若い記者が私の肩をたたく。
「強いですね」
「何がです」
「あなたは酔わないですね」
冗談じゃないよ。三分目から内々前途をはかなんでいるのだ。しかし、そうか。飛行機に乗り飽いたわけではなくて、御一統、のびていらせられたのか。
輸送指揮官、原社会部長、蒼ざめて現る。
「この機長、よう知っとるわい。東京の上空二回廻ってやるからビラまくのはそれだけで止めとけ言うんや。各都市毎に旋回しおったら殺人問題や。たって頼みこまんで、よかったわい」
蒼白の高峰秀子嬢に単刀直入、きく。
「ずいぶん苦しそうですね」
「いいえ!」
断乎として否定する。
「キャプテンもエアガールも、親切。本当に愉快な空の旅です!」
航空会社と読売新聞と航空旅行そのもの
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