新潟の酒
坂口安吾
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【テキスト中に現れる記号について】
《》:ルビ
(例)白鷹《はくたか》
/\:二倍の踊り字(「く」を縦に長くしたような形の繰り返し記号)
(例)わざ/\
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新潟へ帰ることはめつたにないが、先年村山政司氏等の個人展を新潟新聞楼上にひらいたとき、私も三週間ほど新潟に泊つた。展覧会より呑みまはるのが忙しくて商売のやうな有様だつたが、驚いたのは新潟の酒が安くてうまいことだつた。屋台店の酒すら充分のめるのである。和田成章氏の案内で「おきな」といふ待合で鯨飲した時は待合酒の素晴らしさに一驚した。我々の考へでは菊か桜か白鷹《はくたか》のそれも純粋な生一本だらうといふのであつたが、訊いてみるとこれが地酒の朝日山であつた。
この数年来新潟の地酒宣伝特売といふやうなものが時々東京で行はれる。かねがね「おきな」の朝日山が念頭を離れなかつた私は酒友十数名を待たしておいて特売所へ駈つけ一升詰を五本仕込んで意気揚々と戻つてきた。飲んでみると甘いばかりで、てんから飲めない酒である。非常に悪評であつた。
この正月古田島和太郎氏が朝日山の一斗樽を送つてくれた。期待してゐなかつ
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