たのだが、飲んでみるとうまい。特売展の朝日山のあくどさはないのである。一円七十銭と値段のせゐか知らないが、察するに特売店の朝日山は二流品としか思へぬのである。
 五年前京都に一ヶ月滞在したついでに、京都の酒友の案内で灘へ酒をのみにでかけた。灘を一週間のみあるいたのである。灘の本場で呑む酒は、安いかはりに、京大阪や東京でのむ酒よりも一ケタ落ちる。かねがね神戸の「たぬき」といふおでん屋の菊正宗の盛名を聞いてゐたので出かけていつたが、これも東京の菊正ビルや岡田の菊正にくらべると一ケタ違ひだ。そのかはり値段は安い。いはゞ二流品なのであらう。思ふに灘は一等品を京大阪、東京の都会地へ出し、土地へは二等品で間に合すらしい。わざ/\のみにでかける人は馬鹿を見るが、商売としてはこの方がうまい。
 尾崎士郎氏が月々の酒代に怖れをなして相談をもちかけてきたので義兄の紅村村山真雄氏が「越の露」の醸造元であり、かねて知人関係へは一斗十円でわけてくれる例があつたところから、紹介した。これが非常な好評で、尾崎方で一杯グッとひつかけた輩がわれもわれもと紹介状を書かせにくる。地酒宣伝の功績甚大なものがあるが、私のは売元
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