ているのである。
「ではお先に」
と九太夫は腰をあげて、急いで戻ったのである。
もっとも九太夫は決して不愉快だったわけではない。なんとなく憎みきれない一族だ。むしろ好意を感じた方が強かった。どことなく天真ランマンなのである。ヤケのヤンパチの底をついているにしても。
★
九太夫はねられぬままに犯人は誰かということについて考えてみた。
あの暗闇ではみんなが殺しに行くことができる。そして殺すことができる。しかし奇術師として考えてみても、殺してから元の位置へ誰にもさとられずに、ぶつかったり、さわったりせずに戻ってくることが難物だ。人と人にはさまれた位置の者が特に困難である。奇術師の立場からでも相当に難物だ。ところが電燈がついたとき、一同元の位置にいたのであるから、人と人にはさまれた位置の者、特に九太夫その人の両側は犯人の容疑から取り除いてもよろしいようだ。実際問題として不可能に思われるのである。その両側は岸井と勝美であった。
両端の茂手木とミドリ、糸子と辰男は元の位置へ戻るのが割合楽だ。しかしミドリは離れすぎている。そして辰男の前面へ戻ってこなければならぬ。
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