刀があったら父を殺してやりたいと思ったのよ。そのうちにガラガラが鳴りだす。ええ、畜生め、無念だなアと思ってね。思わず無念の呻き声をたてたのよ」
 何屈託のないノンキな顔だ。九太夫はあきれて、
「ハア。そういう真剣な呻き声もあったんですか」
「そうなんですよ。私の心霊作用が犯人さんにのりうつッてね。つまり私は共犯かな」
「やめとけ!」
 一寸法師が立ち上ってジダンダふんで怒りだした。酒がまわって真ッ赤なホーズキのような顔である。怒りがなかなかとまらぬらしくアチコチ駈けずりまわってはジダンダふんでいる。
 こうして怒りを自制する方法を常用しているのかも知れない。糸子はそれをおもしろがって眺めていたが、
「天下一品の兄貴だよ。とても肩身がひろくッてね。熱海の駅で客ひきしてる一寸法師の妹を知らねえかア。時々タンカをきってやるのさ。私の坊やフレンドにね」
「ヤイ、帰れえ! みんな帰れえ!」
「お前がでてけえ!」
「ヤイ、糸子!」
「なんだい、ジダンダふんだって一メートルじゃアはえないや。クビをくくるにはカモイが高すぎるし、いい身分だなア」
「ウーム!」
 一寸法師は益々真ッ赤になって必死に我慢し
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