て、ころげまわっている。いずれも先日同様のもしくは類似の服装であるが、茂手木と岸井は洋服に靴下、吉田八十松も洋服に靴下ばきで九太夫と辰男が足袋である。女もむろん足袋か靴下で、素足の者は一人もいない。
警官が代って吉田八十松をイスにしばりつけ、いよいよ実演の段取りとなったが、今度は八十松が怒ってしまった。警官たちを睨みまわして、
「あなた方、どうしてそこいらに立ってなさるんです。それじゃア実演ができません。とっとと引きとっていただきたいね」
「警官が立ち合わなくちゃア実演の意味をなさんのでな」
「そんなにたくさんアチコチにいちゃア邪魔で仕様がない」
「この警官たちが皆さんの代りに被害者の方へ歩いたり、その気配をききとめたりする役目なのだから仕方がないよ」
「しかし、あなた、私の方の側にいちゃア、鉄丸を投げたり、ガラガラを投げたり、いろいろなものを上へ投げたり振り廻したりするのだから、それじゃアとうてい実演するわけにいきません」
「それはもッともだ。そっち側の警官は不要なのだから、邪魔にならない隅の方へ、その床の間のあたりへ集まるがよい」
ようやく準備ができた。被害者の方へ忍んで行くの
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