は辰男、茂手木、糸子の三名の代人だけらしく、三名のうしろのそれぞれの位置に警官がいる。また、岸井、九太夫、勝美のうしろは無人のところを、ここには聴き役の警官が座についている。
 糸子が電燈を消してきた。
「オーウ」
 という八十松の遠吠え。警官の隊長が代りをつとめたらしくポータブルが鳴りだした。それからは先夜そのままである。さすがに八十松の芸は巧妙で、時間の間隔まで間髪の差もなく、舞い廻る品々も同じ場所に同じ動きを示したように思われた。
 こんなことをやってみたって、実はムダにすぎないのだ。心霊術に注意を集中している場合と他の物音に注意を集中している場合とではその差甚大ではないか。甚大すぎる差と云えよう。それですら物音はほとんどききとれなかったのだから、この実演の結果は全員の容疑が一様に深まっただけで、特定の一人の容疑を深めることは完全に失敗に終ったのである。
 特定の一人と云えば、特に茂手木の代人はガラガラが鳴りはじめてから行動を起し、鳴り終る前に行動を終えてなお余裕シャクシャクたるものがあったのだが、かかるガラガラの鳴ることを予期しうるはずもなく(九太夫すら予期しなかった)またその
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