曜は一同足どめをくらッたまま何事もなくて、月曜に至って後閑邸へ参集を命じられた。午後六時半には日が暮れるから一時間半くりあげて七時から前々日と同じことを実演してみることになったのである。
 各人の後閑邸到着から実演室への着席まで順を追うてやるのだが、ここらへんで便所へ行ッたッけ、お茶が来たッけ、そうだったかなアというアンバイで埒があかない。威勢のよい茂手木はとうとう怒ってしまった。
「オレは勤め人だぜ。熱海へ足どめしてくだらないことをさせて、だいたい警察のやり方がなってやしねえや。最新の科学を利用してテキパキと物的証拠がつかめねえのかやい。銭形平次時代みたいな実演会なぞ今どきやるとは何事だ」
「ま、キミ、我慢して今晩だけつきあってくれたまえ。明日からは自由だから」
 というようなわけ。
 まず見物人が着席する。現場は死体がないだけで、そっくり以前のままである。吉田八十松はこれまた哀れで、仙七とどこでどうして何を喋ってどこを通ってと相手がいないのに相手のぶんまでやらされて、ようやく実演室へたどりつく。つづいて糸子がアタフタかけこんできて、
「間に合ったア! バカバカしい!」
 ヤケを起し
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