の孫がくると財産はお前の物ではなくなるのだ
 ――そのための心霊術実験会ではありませんか。伊勢崎さんは絶対にインチキだから心配するなと力をつけて下さっています。この実験会の結果、父のビルマ訪問が不可能になるのを信じていたのですから、父を殺す必要はないのです。だいたいぼくはシガない客ひき番頭ですが、ともかく暮しにこまらない定職があって多少の貯金もあるほどですから、今すぐに父の財産をつぐ必要なぞないのです。老後安穏に暮せるだけで結構で、今のうちはその希望とともに客ひき番頭でノラクラ暮している方がむしろ生きガイやハリがあってたのしい毎日だったんですよ。今すぐ父のあとをつぐというのは、むしろ怖しくて望ましいことではなかったのです
 ――伊勢崎九太夫は吉田八十松の心霊術をほめてるぞ。日本一だと云ってる。ビルマの孫の所や名を言い当てるのは不可能でないとほめちぎっているのだ
 ――ぼくはそんなことは初耳ですよ。伊勢崎さんが心霊術のインチキをあばいて下さるものと確信していたのです
 ――お前の着物に血がついてたぞ
 ――それは父を抱き起したのがぼくですから、血がついても仕方がありません。あの場に居合わ
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