い。とうとうシビレを切らせて、人々の中には身動きをはじめたりセキばらいをする者も現れた。するとボックスの方からも、
「オーウ」
と例の遠い山のフクロウのような声がきこえてきた。しかし何事もないので、また、
「オーウ」
と同じ声が起った。音楽をサイソクしているらしいのである。
「どうも、おかしい。どなたか、電燈をつけて下さい」
九太夫がセカセカした声で叫んだ。誰か立った。電燈がついた。電燈をつけたのは糸子であった。見物席の一同には変りがない。ただ一人、一同に離れ、テーブルの側面にポータブルに対している仙七だけが俯伏している。その背中から真上へ突きでているものがある。短剣のツカだ。短剣はほぼその根本まで胸を突き刺しているのである。仙七はもう動かなかった。一同が抱き起してみると、彼はすでにことぎれていた。
★
次に各人の証言のうち主なるものを記する前に、当夜の各人の位置について図解を示しておくことにする。
[#各人の位置の図(fig43247_01.png)入る]
Aボックス(即ち吉田八十松) B仙七 C茂手木 D岸井 E九太夫 F勝美 Gミドリ H糸子 I辰男
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