にわかに三ツ同時にテーブルの上へころがり落ちたのである。
 今度は笛が舞い上った。そして物悲しげな笛の音がかすかに宙から起ってきた。しかしそれも人が吹いているのではない。なぜなら笛は木から木へとぶムササビのように右から左へ左から右へ絶え間なくはげしい運動をつづけているからだ。人形が舞い上った。物悲しげな笛の音はなおもかすかに断続している。にわかに二ツが空中高く舞い上って落下した。すでに土ビンと茶ワンが舞い上っている。二ツがカチカチふれあう。はなれる、またふれあう。土ビンが傾いて茶ワンに水をつぎこんでいる。土ビンと茶ワンの上下の距離がはなれたり近づいたり。土ビンと茶ワンが一回転して前へ落ちた。
 人々はカタズをのんで待ちかまえたが、心霊現象はそれで終っていたのである。人々はいまにテーブルが動きだすかと特にそれを待っていた。もっともそのテーブルには夜光塗料がぬってないから、動きだしてもドスンバタンと音をたてるぐらいのものであろう。しかし九太夫がそのテーブルを改めたのを人々は見ているから、特にその期待が大きかったのである。
 しかし、いつまでたっても何事も起らない。また終りの音楽も鳴りださな
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