ある。かなりの重みの鉄のタマのようなものらしく[#「らしく」に傍点]ドーンと落ちてころがったようだ。つづいて、
「キキキキキ、ガガガガガ、ガンガンガン」
しッきりなしに不快きわまる大音を発するものがテーブルの向う側を動きまわりはじめた。これもテーブルの上のものではない。目に見えないものだ。何か子供のオモチャのたぐいであろうか。しかしオモチャの金属質の高音をさらに何倍もけたたましくしたようなもので、怪物どもの泣き声とも笑い声とも怒り声ともとれるような醜怪な音響だ。部屋いっぱいにはね狂うように充満して響きたつのだからたまらない。
「ウム」
「ウーン」
諸方で誰かが呻きを発した。二三人にとどまらない。一人の呻きをきくと、ひきずられて思わずうめかずにはいられなかったのである。
怪音が三四十秒つづいて終ると、すでに音楽も終っていた。にわかにハモニカが宙にういてプープー鳴りはじめた。人が吹いているのではない。なぜならハモニカは人の頭よりも高いところをクルクル舞い廻っているからである。突然メガホンも宙を舞いはじめた。つづいてラッパが舞い上った。三ツ一しょに目まぐるしくクルクル舞い狂ったあげく、
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