セカセカしているようなことがあった。こういう様子も人に見せた仙七ではなかったのである。
だから仙七の心に何事か変ったものが生じていたに相違ないが、さればとて戦死した長男への愛情ということは考えられない。彼が長男の幽霊を見た、ビルマの孫をひきとりたいと云いだしたのはずッと後のことで、つまり何事か心に変化の生じたあげくに思いついた口実としか考えられないのである。
しかし、四人の兄妹が一様にこの心霊術の実験に反対のわけではなかった。糸子は反対どころか、むしろ大いに霊のお告げがあることを望んでいて、
「おもしろいじゃないの。お父さんの本当のコンタンは見当がつかないけど、あの冷血ムザンのケチンボーが何百万をもお金使って本当にビルマへ孫を探しに行くとしたら、おもしろいわ。そのときのケチンボーの顔を見てやりたいな。大いにケシかけて否応なくビルマへ行かせてやりたいと思うわ」
こういう考えであった。父の金など当てにしなくとも高給のとれるファッションモデルのことだし、まだ若いから屈託がないのだ。
これに反して深刻なのは一寸法師の辰男だ。彼が兄妹の最年長者でもあり唯一の男でもあるから、当然家をつぐの
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