は自分だときめこんでいる。だから宿屋の番頭をしながらも経済界のことには勉強も注意も怠らず、株屋だの銀行員の客とみれば根掘り葉掘り訊きだして経済界の実相というものを身につけようと努力し、父亡きあと直ちに父の会社の社長におさまっても一ぱし通用できるように常住坐臥怠るところがないのであった。今は宿屋の客ひきだが未来は高利貸し会社の社長と心に堅く思いこんでいるのである。こういう辰男であるから、かりにも孫をひきとるとあれば衝撃は深刻で、
「ビルマに兄さんの子供なんかがあるはずないけど、オヤジがあんなこと云いだすからには、兄さんの奥さんと子供が必要なんだ。だから必ずビルマから兄さんの奥さん子供と称してビルマの田舎女とその子供をつれてくると思うね。どういうコンタンだか、オヤジの商法は一般の商法では見当がつけられないけど、たとえば財産を無智盲昧な異国の女子供名儀に書き変えるような必要があるに相違ないね。だから霊のお告げッて奴を通用させちゃア我々の破滅だね。特にぼくのような一寸法師には深刻だよ。ぜひとも心霊術のインチキをあばかなくッちゃア」
 口中からのべつ泡をふきたてての必死の熱弁であり決意であった。
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