洲の信長を訪ねて、お好きの方を進上するから一羽とってくれと云うと、信長は喜んで、ヤ、こゝろざし至極満足、じゃ、貰うぜ、天下をとるまで預っておく、お礼はいずれ、その折に、と言った。田舎小僧め、大きなことを言っていやがる、と人々は大言壮語をおかしがったが、信長そのとき二十八だ。天下布武という印章をつくって愛用し、天下一の情熱を日常の友としているが、その野心は彼に限ったことではない。
天下一の野心ぐらいは、餓鬼大将は誰でも持っているものだ。けれども、自信は、それにともなうものではない。むしろ達人ほど自信がない。怖れを知っているからだ。盲蛇に怖じず、、バカほど身の程を知らないものだが、達人は怖れがあるから進歩もある。
だから、自信というものは、自分でつくるものではなくて、人がつくってくれるものだ。他人が認めることによって、自分の実力を発見しうるものである。このように発見せられた実力のみが自信であり、野心児の狙いやウヌボレの如きは何物でもない。
信長は我流でデッチあげた痛快な餓鬼大将であったが、少年時代に、短槍《たんそう》の不利をさとって、自分の家来に三間半の長槍を用意させたほど用心ぶかい
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