をなんとかしてくれ、というだけのことだ。まア、借金の依頼を一とまわり大きくしたゞけのようなものだが、これだけのことでも、朝廷から、頼みをうける、頼まれるだけの実力貫禄というものが具わったからのことで、いわば実力の判定を得たようなものだ。
信長はミヤゲにもらった道服をきて、左京亮と盃をいたゞき、二通の綸旨をいたゞいて元気百倍、これから近隣を片づけて、それから天下を平定いたしますから御安心下さい、まず、三日五日ほどユックリ泊って行って下さい。先《まず》は天下ひらける前祝い、雁の汁に鶴の刺身、長臣五名をよんで酒宴をひらく。
朝廷へも同じ縁起の品物をと、翌日からセッセと狩をして、雁と鶴をしこたま捕って、金子《きんす》に添えてミヤゲにもたせて帰らせた。
そのとき信長は三十四だ。信長は野良犬の親分みたいに、野放しに育った男だ。誰のいいつけもきかず、マネもせず、勝手気ままを流儀にして、我流でデッチあげた腕白大将であった。腕白大将という奴は、みんな天下一というようなことを、いと安直に狙う。
丹波の桑田郡|穴太《あのう》村の長谷《はせ》の城守、赤沢加賀守が関東へ旅をして鷹を二羽もとめて、帰途に清
前へ
次へ
全39ページ中6ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
坂口 安吾 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング