のものとなった、この包みが、ありがたい綸旨二通と奉書なのだ、こうしては、おられん、さあ、いそいで、支度々々、めでたい、ありがたい、と云って、むやみに一人でテンテコ舞いをしている。
 信長が戻ってきた。いつもの通りさッさと湯殿へ行く。道家がそれを追いながら、実はこれこれにて、朝廷の使者が見えております、アヽ、そうか、と云って、信長は風呂の中へとびこんで、湯ブネから首をだして、勅使のことを色々と質問し、新しい小袖の用意はあるか、ございますとも、それはもう用意に手ぬかりはございません、せっかく天皇様が日本国を下さると仰有《おっしゃ》るのですから、と、道家は日本国をもらった、もらった、とウワゴトみたいに言っている。それで信長もお風呂でバチャバチャ水をはねちらして、上キゲンであった。
 然し、別に日本国の支配を命じるというような、たいした綸旨ではなかった。
 お前も近頃武運のほまれ高く、天下の名将だとその名も隠れなく請人の崇拝をうけているそうであるから、ついては朝廷に忠義をつくし、皇太子の元服の費用を上納し、御所を修理し、御料所を恢復してくれ、こういう意味の綸旨であった。
 皇室の暮しむきの窮状
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