事な殿様姿で現れたものだ。お供の面々、誰一人、今まで夢に見たこともない姿であった。
 信長はスルスルとお堂へすすんだ。縁を上ると、さア、こうお出でなさいまし、と案内の侍臣が奥をさしたが、信長は知らぬ顔、目玉をむいた大僧どもの陳列然と居流れる前をスーと通りぬけて、縁側の柱にもたれてマヌケ面である。
 信長がしばらく、柱にもたれていると、道三が屏風をおしのけて、出てきた。道三も知らんフリをしている。
 侍臣が信長に歩みより、こちらが斎藤山城殿でござります、というと、柱にもたれた信長は、
「デアルカ」
 と言った。
 それから敷居の内へはいって、道三に挨拶をのべ、ともに座敷へ通って、盃を交し、湯づけをたべ、いと尋常に対面を終わり、又、あいましょうと云って別れた。
 道三は二十町ほど見送ったが、信長方の槍が自分方より長いのに興をさました様子で、信長と別れてからはウンともスンとも言わなかった。
 黙々と歩いて、アカナヘという地名の処へきたとき、猪子兵介が道三に向って、
「どうですか。やっぱり、あいつ、バカでしょうが」
 と言うと、
「さればさ。無念残念のことながら、今にオレの子供のバカどもが、信
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