長の馬のクツワをとるようになるにきまっていやがる」
と道三は答えた。彼の仏頂ヅラは当分とけそうもなかったのである。
彼はトコトンまで信長に飜弄されたことを知った。自分の方が飜弄するつもりでいただけ、その後味はひどかった。道三は信長の人物を素直に見ぬくことができたが、信長の家来どもは素直ではなかったから、彼らには、やっぱり主人が分らなかったのだ。
彼らは信長の殿様然たる風姿をはじめて見て、さては敵をあざむくための狂態であったかなどと考えて、然し、それで、主人の全部をわりきることも出来なかった。
敵をあざむくためなどゝ、信長はそんなことは凡そ考えていなかった。彼は人をくっていた。人を人とも思わなかった。世間の思惑、世間ていは、問題とするところでない。フンドシカツギのマゲが便利であっただけで、又歩きながら、瓜がくいたかっただけのことだ。立派な壮年の大将となっても、冬空にフンドシ一つで、短刀くわえて、大蛇見物に他の中へプクプクもぐりこむ信長なのである。
論理の発想の根本が違っているから、信長という明快きわまる合理的な人間像を、その家来たちは、いつまでも正当に理解することができなかった
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