心をそゝぎ、昔の坊主仲間の南陽房にたよって、美濃の長井の家来となり、長井を殺し、長井の主人の土岐氏から聟をもらって、その聟を毒殺、土岐氏を追いだして、美濃一国の主人となって、岐阜稲葉山の城によった。
主《ぬし》をきり聟をころすは身のをはり、昔は長田、今は山城
というのが、当時の落首だ。山城とは、斎藤山城入道道三のことだ。微罪の罪人を牛裂きにしたり、釜で煮殺したり、おまけに、その釜を、煮られる者の女房や親兄弟に火をたかせた。釜ゆでの元祖は石川五右衛門ではなかったのである。
悪逆陰険の曲者だったが、兵法は達者であった。信長同様、長槍の利をさとり、鉄炮の利器たるを知って、炮術に心をくだいた。明智光秀は炮術の大家であるが、斎藤道三について学んだのだと云われている。
こういう曲者が隣国にいて、信長の父は、隙をねらって攻めたり、攻められたり、年来の敵手であるから、信長のモリ役の平手中務は年少の信長に道三の娘をめあわして、後日にそなえておいた。
道三は政略結婚、結構。相手がその気なら、こだわることはない。聟の一匹二匹、ひねり殺すに、こだわる気持が元々ないのだ。
けれども、道三は、さすがに
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