悪党のカンである、大ウツケ者、バカ若殿。この御仁の代には必ず家がつぶれる、という、大評判。ほかならぬ織田家の家来の定説なのだ。然し、さすがにこの悪党は、世の定説のごときものを、そのまゝ、ウノミにしなかった。
 人があの小僧はバカだというたびに、ほんとか、なぜだ、ときいた。そして、バカではあるまい、と言うのであった。
 フンドシカツギのマゲをゆい、ユカタの着流しに、片ハダぬいで、腰に火ウチ袋やヒョウタンを七ツも八ツもぶらさげて、人の肩につるさがって、瓜をほおばり、餅をかじりながら道を歩いているという。なるほど、行儀は、若殿らしいものではない。オヤジの葬式に、ふだん着の姿でチョコ/\と現れ、抹香をクワッとつかんで投げつけるとはバカだ。
 けれども水練は河童の如しというではないか。荒れ馬を縦横に駈け苦しめて乗り殺すほどの達人だというではないか。炮術に練達し、長柄の槍の利得を見ぬいているというではないか。腕ッ節の強さだけでも、曲者ではないか。
 然し、誰一人、道三の意見に賛成しない。アハハ、とんでもない、あれはマギレもない大バカ野郎にきまっています、とみんながみんな、言う。
 そうか、とにかく
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