称されるに至った。
 二歳年少の弟弟子《おとうとでし》に南陽房という名門の子弟がいて、これが又、学識高く、若手にして諸学に通じる名僧で、二人は非常に仲がよかったが、道三は坊主がイヤになって、還俗し、女房をもらって、油の行商をはじめた。
 辻に立ち、人を集めて、得意のオシャベリで嘘八百、つまりテキヤであるが、舌でだましておいて、一文銭をとりだす。サア、サア、お立会い、ヘタな商人はジョウゴについで油をうる、腕も悪いが油も悪い。タアラ、タラタラと一とすじの糸となって流れでる油、これが、よい油だよ。さあ、お立会い。拙者の油は、よい油だ。よろしいか。拙者は油をヒシャクにくむ。それを、こうして、イレモノへつぐ。タアラリ、タアラリ一とすじの糸、ごらん、穴アキの一文銭の穴を通して、タアラリ、タアラリ。まちがっても、穴のフチに油がかゝったら、ゼニはいらん。ようく、みな、フチに一滴たりとも、かゝるか、かゝらないか、そうれ、みな、タアラリ、タアラリ。
 手練の妙、穴を通して、フチへ油のかゝったことがない。大評判、油は一文銭の油売りの油にかぎるとなって、たちまちのうちに金持ちになった。
 油を売りながら兵法に
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