ゴコロだった。家康の同盟に見たものも、それにちかい捨身の律義であった。不逞の野望児信長は、せめて野望の一端がなる日まで、マゴコロのジジイを生かして、見せてやりたかったであろう。然し、悪童の狂態は、ジジイの諌死にかゝわらず、全然変りは見られなかった。
 マゴコロのジジイは大ウツケ者のバカ若殿の未来を按じて、隣国の斎藤道三の娘をもらって信長にめあわせた。斎藤と織田は美濃と尾張に隣り合せて、年来の仇敵であり、攻めたり攻められたり、互角に戦って持ちこたえたが、バカ若殿の代になると、たちまちやられる憂いがある。ジジイはそれを怖れたのである。
 斎藤道三も六十ぐらいのジジイであった。これが又、当時天下に隠れもない大悪党の張本人の一人であった。かの老蝮は天下の執政である、この色男のジジイは大名である。地位に多少のヒラキはあるが、悪逆無道の張本人と申せば、当時誰でもこの二人のジジイに指を折り、その三木目は折らなかったものである。
 浪士の家に生れ、幼少の折、京都の妙覚寺へ坊主にだされた。花のような美童で、智慮かしこく、師の僧に愛され、たちまち仏教の奥儀をきわめて、弁舌のさわやかなこと、若年にして名僧と
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