たことではない。家来たちは慌てふためき、信長に有無を云わさずひきずり廻され、ふと気がつくと戦争がすみ、戦争に勝っている。
 筋が立たず、不合理に思われ、それで呆気なく勝っているから、信長は勝敗は運だという、その運を家来たちはマグレ当り、偶然のギョウコウ、そう見ることしかできない。信長の偉さを合理的に理解することができないのだ。
 信長にとっては、すべては組立てられていたのである。専門家とは、そういうものだ。兵隊や将軍はたくさんいる。大将も元帥も少くはない。けれども本当の専門家はその中に何人もいないものだ。芸術家でもそうだ。
 信長にとっては、生れてから今川を倒す二十七年、見るもの、きくもの、すべてがそのために組み立てられた。そのためとは、今川だけのことではない。武田でも、上杉でも、よかった。すべて当面するそのものゝために組み立てられていたのだ、その組み立ては機械のように合理的なものであったが、家来たちには分らない。
 特に家来たちは、信長の幼少からの常規を逸したバカさ加減に目をうたれているだけに、彼の成功にマグレアタリの不安を消すことが困難だった。
 信長が父を失ったのは十六のときだ。
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