らいているのであるから、他人にかゝる迷惑というものを、最もつゝましい心で勘定に入れていなければならないものだ。
 人間というものは、五十年しか生きられないものだ。二度と生れるわけにはいかない。人間の歴史は尚無限に続き、常に人間は絶えなくとも、五十年しか生きられない人間と、歴史的に存在する人間一般とは違う。
 政治というものは、歴史的な人類に関係があるわけではなく、常に現実の、五十年しか生きられない人間の生活安定にのみ関係しているものである。
 政治というものは、常に現実をより良くしよう、然し、急速に、無理をして良くするのではなく、誰にも被害の少い方法を選んで、少しずつ、少しずつ、良くしようとすることで、こう変えれば、かなり理想的な社会になる、ということが分っていても、いきなりそれを実現すると、多数の人々に甚大な迷惑がかゝる、急いでは、ムリだ、と判断された時には、理想を抑えて、そこに近づく小さな変化、改良で満足すべきものである。
 我々の後なる時代に、各々の時代の人が、各々の時代を少しずつ住み良くして行く。人類永遠の平和などゝいうものを、我々が自分の手で完成しようなどゝは、後なる時代の人
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