となるだろう。
 人間は個の歴史から解放されて、人間そのものゝ歴史のみを背景とし、家の歴史を所有しなくなることだけで、すでに多くの正義を生れながらに所有するに至るだろう。
 戦争は終った。永遠に。我々に残された道は、建設のみである。昔ながらのものに復旧することを正義としてはならないのだ。こりることを知らねばならぬ。常に努力と工夫をもち、理想に向って、徐々に、正確に、めいめいの時代をより良いものとしなければならない。
 私はくりかえして云う。戦争の果した効能は偉大であった。そして、戦争が未来に於て果すであろう効能も、偉大である。即ち、世界単一国家と、家の制度に代る新秩序の発生。
 すでに戦争の終った今日、我々は戦争が未来に果すであろう役割を、平和な手段によって、徐々に、正確に、実現してゆかなければならないのである。
 古きものを、古きが故に正しとみる蒙昧の失われんことを。まことに、まことに、そうあれかし。



底本:「坂口安吾全集 07」筑摩書房
   1998(平成10)年8月20日初版第1刷発行
底本の親本:「人間喜劇 第一一号」イヴニングスター社
   1948(昭和23)年10
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