あらうが、まるで自分が淫奔なのは野村が高めてくれないせゐだと言ふやうな仕掛けにもなつてゐる。
なんと云つても野村には女の過去の淫奔無類な生活ぶりが頭の芯にからみついてゐるのだ。それを女にあからさまには言へないが、それはたしかに毒の血の自然がさせる振舞で、理知などの抑へる手段となり得ぬものだと見てゐるのだ。
戦争は終つた。
戦争の間だけの愛情だといふことは、二人の頭にこびりついてゐた。敵の上陸する日まで、それは二人の毎日の合言葉であり、言葉などの及びもつかぬ愛情自体の意志ですらあつた。その戦争が終つたのだ。
女はほんとに一緒に暮したい気持があるのかな、と、野村は考へてみても信じる気持がなかつた。
淫蕩の血が空襲警報にまぎれてゐたが、その空襲もなくなるし、夜の明るい時間も復活し、色々の遊びも復活する。女の血が自然の淫奔に狂ひだすのは僅かな時間の問題だ。止めようとして、止まるものか。高めようとして、高まるものか。
終戦になつてみると、覚悟はきまつたやうだ。なに、女だつて、さうなのだ。野村に食つてかゝつた女は、二人の愛情の永続を希むやうな言葉のくせに、見様によつては野村よりも積極的
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