文士が酒をのんでは、小説も書けないばかりで一向役にも立たないが、含宙軒師匠が酒をのむと、全国の皆様を春風タイトウとさせるのだから、ここは身命を投げうって酒を飲むところかも知れない。
戦後派の人気者の一つに職業野球がある。戦前に野球の主流であった六大学も甲子園大会も都市対抗も、今では、プロ野球の新人発掘の温床として注目される程度となっている。
しかし保守思想というものは、こういうハツラツたるスポーツに於ても在るもので、先日読んだ野球雑誌に、日本野球のベストメンバーというのを見ると、一塁が川上でも西沢でも飯田でもなく、死んだ中河になっている。そして中河こそは不世出の一塁手で、生れながらのプロ野球人だなどと絶讃しているのである。
しかし私の記憶によれば、中河が生きて活躍していた当時は、守備に於てはすぐれているが、打撃が全然ダメであるからという理由で、当時ベストメンバーを選ぶ時には、そのころはまだプロ新入生の川上などが却って選に入り、中河をベストメンバーに加える人などは殆どなかったものである。今日は尚のこと打撃時代であり、彼のスマートな守備ぶりがいかほどプロ的であっても、あの貧打でベスト
前へ
次へ
全16ページ中8ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
坂口 安吾 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング