邸宅の解放などと、スパイの中でも三下奴《さんしたやっこ》がやるようなことしかやれなかったのである。
現在も尚《なお》追放文士の一人である武者小路実篤は何十年前にともかく新しい村という空想的ではあっても彼の精一杯の設計を現実にやったが、共産党ときては、大きな図体をして、その理想のモデルたる部落も工場も設計して真価を世に問うてみるだけの内容も実力もなかった。前進座という党員を座員に組織された相当に有能な劇団も、その敬服すべき努力も忍耐も組織も座員の個人的なもので、党による文化運動の見るべきものなどは一つもない。ただ文化指導者同士の血で血を洗う内紛をさらけだしただけである。建設的な施策に於て、公平な第三者を納得させるような成果は、まったく一つも行うことができなかったのである。
三鷹事件の真相がどうあろうとも、惨事の起った直後、血まみれの現場に立ってアジ演説に利用した党員の品性の低さはやりきれないではないか。そんな時に主義も主張もあるものか。万人相ともに、傷者を助け、死者を搬出するために精魂傾けるのが当然の人道ではないか。私は党が、三鷹事件を法廷戦術に利用した事実は何ヵ月間イヤというほど見
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