し不幸にして、(実に不幸にして――)、私の気持を、決して計算の中へ入れやうとはしなかつた。そのために、益々不快の念を加へずにゐられぬ私は、「怒り――敷居――笑ひ」といふ甚だ自分勝手な彼の計算を、それ故彼の存在を、最も強い憎しみを以て遇せずにはゐられなかつた。
「お邪魔ではありませんか――」
 私は苦りきつて、忌々しげに横を向いてゐるのであるが、すると彼は、私の如何なる苦々しい面相に向つても、常に一種の全く目的の不鮮明な薄笑ひを浴せることを怠らずに、(それは全く冷笑とも微笑ともつかないものであつたが――)、その余りの手応への無さに、その余りの不快さと無意味さに、絶望へまで、私を、導かずにはおかなかつた。彼は私の苦りきつた真つ暗な顔付を判断して、今日は気分が悪いのかと尋ね、それから近頃の気候のことや、目新らしいニュースの話、更には又、鼻持ならない音楽の話、政治の話……
 ――不愉快な薄笑ひを私の部屋一杯に満した彼は、その平凡な、四角張つた顔の暈《かさ》を幾つとなく部屋の空気へぬき残して、一礼し乍ら、(尚薄笑ひを私に浴せて――)立ち去らうとするのであつた。そして、後向きとなつた途端に、(当然
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