、決して然し自分の要求を露骨には表はすことが出来ずに、寧ろ自らを嘆くやうな、自らを卑しむやうな、遣り切れない心細さを漂はして、私の後を歩いてくるのであつた。しかし私は、全く反省もなく唯軽率に、人のうるささのみを専《ひた》すらに忌み嫌ふ私は、露骨に苦りきつた嫌悪の表情を表はして、寧ろ軽蔑を、――或ひは、「私は貴女と一緒には一秒といへども歩きたくない」といふ意地わるな示威を、忌々しげに表現してみせるのであつた。すると此の婦人は、更に一層の自卑を感じて――しかしその強い怒りを隠しきれずに、弱々しい反抗を、無言のうちに反撥しやうとするのであつた。
 そして私は――ひたすらに人のうるささを忌み嫌ふ私は、まして、私にまつわりかかる人の感情のうるささに対しては怒りの絶叫さへ張りあげたい私は、私に加へられた此の婦人の反抗を、更らに激しい立腹をもつて叩き返さずにはゐられなかつた。私の性質として、決してまとも[#「まとも」に傍点]に整然たる理論を扱ひ得ない私は、たち[#「たち」に傍点]の良くない皮肉によつて、それは寧ろ殆んど一種の致命的な侮辱でさへあるところの悪意を籠めて、例へば、「私は貴女の夫ではありま
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