して、しかも尚無関心を装ほひ乍ら、面白さうな足どりで階段を降るのであつた。私は覚えず逆上して――その時已に彼の閉ぢ籠つた階下の一室を荒々しく開け放ち、
「ああ、騒がしい奴だ。貴様は実に、鼻持のならない奴だ、ああ、貴様は……」
「ア、ア、ア、不潔だ、不潔だ――」
彼は怯えて――狼狽と反抗とで蒼白な頬に痙攣を起し乍ら、熱狂して、見えない敵と闘ふやうに打ち騒ぎはじめるのであつた。
「出て行け! お前は出て行つてくれ! お前を見ると胸がむかむかしてしまふ。苛々する。ア、ア、お前は俺を殺すのか――」
「ああ、騒がしい。ああ、騒がしい……」
「ア、ア、俺は自殺する。俺は自殺してしまふ……」
「うるさい、ああ、うるさい。実に、騒がしい奴だ、ああ、俺は間もなく死んで行く人間なんだぞ――ああ、俺は……」
「ああ、堪えられない。実に不愉快だ。俺は生きてゐられない。アア、全く暗闇だ……」
彼はやにわ[#「やにわ」に傍点]に座布団を取り、劇しく私に叩きつけると、その隙にいち早く私の横を擦り抜けて、wachchchchch――坂道の一方へまつしぐらに走り去つてしまふのである。
第三の騒音――
扨《さ》て
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