が欲しい。うたたねの夢にそれを見ていることもある。中食後海へ行き四時ごろ帰ってきて風呂にはいり、ついでに洗濯物をしたり、それから寝ころんで雑誌をよみだすと、また、うとうととねむってしまう。久須美が帰ってきて、その気配でたいがい目がさめる。夕方になっている。海がたそがれ、暮れようとしている。私は海をしばらく見ている。久須美が電燈をつけると、もうちょっと、あかりをつけないで、という。しばらくして、もうつけていいわ、という。私は顔を洗い、からだをふき、お化粧を直し、着物を着かえて、食卓に向う。あかるい灯と、食卓いっぱいの御馳走が私の心を安心させ、ふるさとへ帰ったような落着きを与えてくれる。私はオチョウシを執りあげて久須美にさし、田代さんにさす。私は私がたべるよりも、人々がたべ、また、私が話すよりも、人々の話のはずむのがたのしい。
 私はこのごろ時々よけいなことを喋るのでイヤになることがある。物を貰ったりすると、ありがとうございます、などといったりする。以前はニッコリするだけだった。季節に珍しい物を貰うと、今ごろ珍しいわね、などと自然に喋っていたり、それだけなら私は別に喋るのがイヤではないけれ
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