ども、好ましくないものを貰うと、ありがとう、というけれども、そしてニッコリしているけれども、ずいぶん冷淡な声なのである。私の母は嬉しいものを貰うと大喜びをするけれども、無関心ないただき物には、ソッポを向くような調子であった。子供心にそれが下品に卑しく見えて、母の無智無教養ということを呪っていた。以前の私はいつもニッコリ笑うだけだからよかったけれども、近ごろは有難うなぞと余計なことを自然にいうようになったから、ありがとうございます、といったり、ありがとう、といったり、言葉や声に自然の区別があって、なければ余程マシなような冷淡な声をだしたりするから、ふと母の物慾、その厭らしさを思いだしてゾッとするのだ。
私は自分で好きなものを見立てて買い物をするよりも、好きな人が私の柄にあうものを見立てて買ってきてくれるのが好きだった。一緒に買い物にでて、あれにしようか、これにしようか、一々私に相談されるのはイヤ、自分でこれときめて、押しつけてくれる方がうれしい。着物や装身具や所持品は私の世界だから、私自身が自分で選ぶと自分の限定をはみだすことができないけれども、人が見立ててくれると新しい発見、創造があ
前へ
次へ
全83ページ中67ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
坂口 安吾 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング