に目がさめて電燈が消えていると、死んだのか、と慌てる始末であった。私はつまり並外れて死ぬことを怖がるたちなのだろう。
 五分ぐらいすぎて、私は次第に怖しくなった。外には何の気配もなかった。ノブ子さんの部屋へ行くと二人はまだ眠らずにいたが、事情を話してノブ子さんの布団の中でねむらせてもらうことにした。
「じゃア関取はまだ戻らないんですね」
「ええ」
「自殺でもしたのかな」
「どうだか」
「うむ、どうでもいいさ」
 田代さんはノブ子さんを相手に持参のウイスキーを飲みはじめたが、私は先に眠ってしまった。痺れるように、すぐ眠った。

          ★

 夏がきて、私たちは海岸の街道筋の高台の旅館で暮した。借りた離れは湯殿もついて五間の独立した一棟で、久須美と田代さんは殆どここから東京へ通い、私とノブ子さんは昼は海水浴をたのしんだ。
 私は毎日七時半頃目がさめる。食事して、久須美を送りだすのが九時ころ、それから寝ころんで雑誌を三四頁よむうちに眠くなり、うとうとして十一時か十一時半ころ目がさめる。昼の食慾は殆どない。ときどき、無性にアイスクリームが欲しい、サイダーが欲しい、冷めたいコーヒー
前へ 次へ
全83ページ中65ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
坂口 安吾 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング