をきかせていたアンゴ氏は最も優秀な手腕家で、モダン日本の木村正二が京都の僕を訪ねての話に、銀座のアンゴ氏は当時銀座有数の美貌の女給とネンゴロになって岡焼き連をヘイゲイしていた由で、こういう有能なアンゴ氏なら、いっそ本家を譲り渡して、天下に威名をあげて貰いたいものだと考えたほどであった。
終戦後は、文学雑誌がやたらと文士の写真をのせることが流行しているから、文士のニセモノが出にくゝなった。こう、安心してはいけないのである。顔がレッテルの映画俳優にまで、ニセモノがいるそうだから、文学雑誌に写真ぐらいでたって、ニセモノ氏は平然たるものなのである。
西荻窪のアンゴ氏は、終戦後初登場のニューフェイスで、私も、いさゝか慌てた。
手紙が豪勢である。女給一同より、とある。よほど大きな店にちがいない。中央線沿線は文士族の群生|聚楽《しゅうらく》地帯で、僕は行ったことがないが、ピノチオなどゝいう文士御専用の喫茶室があったことなど、十何年前から耳にしている。新円景気などゝ云ったって、どうせ文士の行くところはカストリ屋に羽の生えたようなところに極っており、女給一同より、というような豪勢なところは、ホンモ
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