ノ共は立寄ることができないのである。だから、西荻のアンゴ氏は、文士族群生聚楽地帯をカッポして、正体を見破られる心配がないのである。
 西荻のアンゴ氏が、いかなる放れ業をやらかしているのか、いささか心配であった。僕の知らない子供などが生れて、印税を要求され、余の死するや子孫が数十人名乗りでたなどゝあっては、まア華やかで結構ではあるが、ネザメのよろしい話ではない。
 カラダには熱があり、中耳炎気味で耳が痛くて困っている時であったが、それだけに、仕事もやりたくない状態だったから、西荻へ出向いて、アカシを立てることにした。
 一人では、とても行けないから、大井広介に助太刀をもとめて、代々木へ訪ねたら、彼はイトコが立候補して、選挙応援に九州へ出向いて不在であった。郡山千冬なら睨みがきくだろうと電話をかけてもらったが、これも不在。銀座なら、雑誌社、新聞社がたくさんあって、豪傑の三人四人たちまちかり集めることができるが、新宿には、その当てがない。一人、居た。紀伊国屋の田辺茂一先生。これは、ふとっていて、睨みがききそうである。喜び勇んで紀伊国屋へ駈けつければ、社長は、今しがたお帰りになりました、という
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