。アケミはかねて云いつかっているから、大広間を横切って、久子を神田の居間へ通した。居間、寝室、浴室と小部屋が三ツ並んでおり、各々広間に通じる扉があるが、各室が横にレンラクできる扉もあって、浴室から寝室へ、寝室から居間へ、広間の人に姿を見せずに往復できるのである。アケミさんの心中、面白からぬのは無理がない。
「安川さんがお見えよ」
アケミは寝室の扉をあけて大声で怒鳴ってバタンとしめた。すると、
「アケミ! アケミ!」
神田が室内から大声でよんだ。アケミはうるさそうに、扉から顔だけ差しこんで、
「なアに?」
神田が何かクドクドと云った。アケミは扉をしめて文作のところへ戻ってきて、
「男ッて、横暴ね」
「どうしてですか」
「美人を隣室へ呼びこんどいて、お前、ちょッと散歩してこいだって」
「先生なら大丈夫ですよ」
「なにが先生ならなのよ。日本一の助平よ、あの先生は」
「フーン」
「何がフーンさ。さ、出ましょうよ。不潔だわ、ここの空気。淫風うずまいてるわね」
アケミは文作の手をとるようにして、外へでた。まさに、そのとき、正午のサイレンが鳴るのをきいた。
「私も一しょに銀座へ遊びに行こうか
前へ
次へ
全30ページ中6ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
坂口 安吾 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング