大家どもをナデ斬りにして溜飲を下げていたのであるが、そのうちに文士の神田兵太郎と同棲するに至った。
 不能者だの男色だのと噂のあった神田がアケミさんと同棲するに至ったから、ジャーナリストも一時は迷ったものである。しかし、結局、神田が不能者であり、男色であるために、女体の最も純粋な鑑賞家なのかも知れない。そしてアケミさんとはそういう結びつきではないかというモットモらしい結論になっていたのである。
 いつも時間がきまっているから、アケミさんはかねて用意しておいたサンドウィッチとコーヒーを持参する。
「原稿できてますか」
「ええ、できてます。ここにあるわ」
 マントルピースの上から原稿をとって彼に渡した。
「ありがたい。いつもキチョウメンにできていて、助かりますよ」
 こういう大家になると時間はむしろキチョウメンで、いつも午前中にチャンと一回分できあがっている。ついでに四五日ぶんまとめてやってくれると助かるのだが、毎日キチョウメンにできてるだけでも上の部でゼイタクは云えない。
「オーイ! タオル!」
 神田が浴室で怒鳴っている。ハーイ、とアケミさんが浴室へ駈けこんでいった。文作が来たときから
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