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法医学者の間でも、自殺説と他殺説があった。他殺説の根拠はタマの射こまれたのがコメカミよりもやや後方で、斜め後方から射たれていること。但し、自殺者がこの角度から発射するのが絶対に不可能だという確実さではない。
他殺説の根拠はむしろ状況的なもので、全裸で自殺することが奇怪であるのが第一。それ以上に奇妙なのはバスタオルが足部にかかっていることであった。犯人が犯行後にかけたものでないとすれば、自殺の瞬間まで胸のへんに押えていたのが、自殺後にズリ落ちて倒れる時には足のところまできていた。そう考えなければならない。
ところが、ピストルで自殺するには一方の手に必ずピストルを使わなければならない。してみればバスタオルを押えていたのは片手でなければならないが、これから自殺しようという時に、ダルマのカッコウのようにバスタオルを羽織って片手で押えながらヒキガネをひくというのは、どうも変だ。
長々神経衰弱の者が突然フラフラ死を思い立って半ば喪失状態でヒキガネをひいたとすればそんな取り乱した死に方もするかも知れぬが、唐手の稽古を小一時間もやってシャワーをものの十分間も浴びた人間
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