おらん。お前らのゲスのカングリ、汚らしいぞ」
克子は皿の上の焼いたイワシに白い眼をむけて、
「七匹なんて、変ね」
と、薄笑いをうかべる。イワシを突きこわして、ゆっくり食べながら、
「九匹じゃ、惜しいのね。六匹に一匹、足したツモリかしら。九匹から二匹、ひいたのかしら」
亮作はつかみかかりたいほど怒りの衝動にかられて、
「私の問いかけたことにハッキリ答えろ。ムリして数を合せているか。これ!」
「それは、たぶん」
克子の顔から血の気がひいて、白い薄笑いをはりつけたようになるのであった。
「忠誠と柔順に対する特別の恩賞ね。一匹のイワシのために老いの目に涙をうかべて喜ぶ人がいたのね。昔の同僚が町工場の小成金に出世して、拾いあげてくれたの。実直でグズなところを見こまれて、会計をあずかる重要なポストを与えられたのよ。けれども、平社員で、サラリーは安いのよ。その代り、社長は、あなた、あります、とテイネイな敬語で話しかけて、あたたかく遇してくれるのよ。そして六匹のほかに、余分に一匹のイワシも与えるの。すると平社員は老いの目に涙をたたえて、日曜の夜の社長の別荘帰りをお待ちするのよ」
女子大学生の
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