ろはそのように甘く、そして後には冷めたかった。
彼に憐れみを寄せる人もなかった。軽蔑と嘲罵が全部であった。
学務委員はそれが父兄全体の声でもあると云って、彼が全然見込みのない受験のために、当面の教育をないがしろにしていることを校長につめよるのである。
校長は彼のために弁護しなかった。
「まったく、あの人物には困りましたよ。よそへ廻したくても、どこの校長も引きとってくれません。まだしも代用教員を使う方がマシだと言いましてね」
「そんなことを云って、大事な子供をまかせておく我々はどうなるのかね」
「今になんとかしますが、本人にも言いきかせますから、辛抱して下さい」
そのたびに彼は校長室によびつけられ、学務委員や有力者の家を謝罪して廻らねばならなかった。
そして彼の月給は、いつまでたっても、ほとんど初任給に近かった。彼は十の余も若い人たちに追いぬかれ、新学期のたびに、彼の級をひきついだ若い教師に、彼の一年間の教育がなっていないことを罵倒されるのであった。
信子は、大伯母の援助がなければあなたを道づれに自殺したろうと克子に言いきかせるのであった。
信子の母の姉、克子には大伯母に当
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