ほどの品々であった。彼は茫然とうけとっているのである。その目には、涙が流れさえするのであった。
「もう、みなさんは、おやすみですか」
「いえ、かまいませんよ。どうぞ、あがって下さい」
「いま伊東からの帰り路ですよ。まだウチへ行ってないのです。おやすみ」
野口は笑顔を残して、静かに立去る。
日曜の夜の習慣であった。信子と克子は、これが見たくないので、早々にフトンをひッかぶって、ねてしもうのである。
そのくせ信子も克子も野口のくれた物を存分に食う。さかんにくれた人と貰った人の悪口をわめきながら食うのである。
「そんなに厭な人から貰った物なら、お前たち、食うな」
亮作は怒りにぶるぶるふるえるが、二人の女はとりあわない。そして益々悪口を叫びつづける。
「なんですね。あの男は。この子の生れたころは、あなたの同僚ですよ。ひところは失敗つづきで、乞食のような様子をして、ウチへ借金に来たことだってありましたよ。それになんですか。いくらか出世したと思って、たかが戦争成金のくせに、威張りかえって」
「威張っておらんじゃないか」
「威張ってますよ。昔はキミボク、イケぞんざいに話し合っていたくせに、い
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