ついて知識がない読者にはそれに対して明瞭なヒントが与えられていないから、解決をよんでも正しく納得させられない。
又「吹雪の山荘」に於ても、トリックの卓抜さはすでに述べた通りだが、一つ欠点があるのである。それは山荘の地点から、殺人の現場まで、どれぐらいの距離で、地形がどうで、スキーならば短時間に到着しうるというヒントが与えられていないことである。
作者は自分が熟知する地形だから一人ノミコミになり易いが、充分にヒントを与えておいた上で、なお悠々と謎ときゲームを争うに堪えうるだけの充分の配慮と構成とトリックの妙がなければならない。
「Yの悲劇」にしても、ふれた手の高さと、ヴァニラの匂いを総計すると、まア、犯人の少年を描きうることになるが、それだけがヒントとしては、かなり漠然としすぎており、もうちょッと明確なヒントを与えておいて、読者を説服するだけの準備と構成がほしかった。少年が犯人である動機、他人のメモを見て実行するという大事なところをヒントに提出しておいて謎ときを争うだけの構成の妙味がなければならない。そのヒントを与えれば、いっぺんに犯人が分るじゃないか、というようでは、傑作をかく作者
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