めだ。
 だからアリバイさえ他に巧みに作りうるなら、外れる危険の多い仕掛などはやらぬに限る。問題はアリバイの作り方の方にある。
 この根本が忘れられて、完全犯罪といえば、すぐ仕掛け、やたらに仕掛けを考える。いくら考えても直接グサリとやるよりも失敗率のすくない仕掛などは殆どない。なぜなら被害者は生きた人間で、時間通りにチョッキリきまった場所にさしかゝるような機械と違う。そんな偶然をあてこむ仕掛よりもアリバイの作り方に重点をおく方が実際は「有りうること」でありつまり読者を納得させるものなのである。
 懸賞探偵小説というと、たいがいこの殺しの仕掛、次に殺した後に自然に鍵のかゝる仕掛がでゝくるのだが、果してその仕掛で殺せるか、殺せるとしてもそのプロバビリティがどのくらい高いものか、そういうところは徹底的に批判して、作者自身がこの程度でなんとかなろう、というような安易な気持で書いておいたとしたら、トコトンまで追求して、その不埒な安易さをギュウ/\油をしぼってやらねばならない。こういうところが日本の探偵小説の今後の発展のために最も重大なことで、この根本に確実なリアリテを欠いていたなら、その作品は完
前へ 次へ
全12ページ中10ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
坂口 安吾 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング