全落第なのである。
 小栗虫太郎氏の作品などは、仕掛の確実さを追求したらまことに怪しいオソマツなものばかりで、その安易な骨組をごまかすために衒学の煙幕をはったもの、こういう手法は最も非知的な児童的カラクリでかゝる欠点は大いに追求されねばならぬ性質のものであった。
 今までの日本は、容疑者がすぐひっぱられる、自白だけで起訴される、全然探偵小説のできあがる条件がなかったのだが、こんどは物的証拠がなければ起訴し得ず、本人の自白だけではどうすることもできなくなって新憲法は探偵小説の革命的発展を約束づけているようなものだ。
 以上の私の感想は、探偵小説を謎ときゲームとして愛好する一趣味家が、その趣味上からの感想をのべたにすぎないもので一アマチュアの感想にすぎない。
 謎ときゲームとしての推理小説は、探偵が解決の手がゝりとする諸条件を全部、読者にも知らせてなければならぬこと、謎を複雑ならしめるために人間性を納得させ得ないムリをしてはならないこと、これが根本ルールである。



底本:「坂口安吾全集 05」筑摩書房
   1998(平成10)年6月20日初版第1刷発行
底本の親本:「教祖の文学」草野
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