いふ返事、ガランドウは翌日の仕事の予定を変更して、二の宮の医者の看板を塗ることゝなり、僕と同行して、魚を探してくれることにきめる。さうなると、ドテラをぶらさげて東海道を歩くわけには行かないので、ドテラの方は、又、この次といふことになつた。何のために小田原へ来たのだか、分らなくなつてしまつたけれども、かういふ本末顛倒は僕の歩く先々にしよつ中有ることで、仕方がない。
翌日、七時すぎて、目を覚したがその気配に、ガランドウのおかみさんが上つてきて、オヤヂは朝早く箱根の環翠楼《かんすいろう》へ用足しに出掛けたけれども、昼までには戻つてくる。それから二の宮へ行くさうだから、と言ふがあんたの洋服着て、気取つて出掛けて行つたよ。へえ、さうかい。なんだか、戦争が始つたなんて言つてるけど、うちのラジオは昼は止つてしまふから。……
東京の街の中では、このやうな不思議なことは有り得なかつた筈である。然し、昼間多くのラヂオが止つてしまふ小田原では、ガランドウの仕事場の奥の二階にゐると、何の物音もきこえなかつた。おかみさんの報告も淡々たるもので、僕はその数日のニュースから判断して、多分タイ国の国境で小競合《こ
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