するところに非ず。たゞ、新婚旅行には適しない。アベックは別のホテルへいらっしゃい。つまり、近代に於ては、アベック用のホテルと、睡眠用のホテルと必ず二つが必要なのである。何とまア偉大な発見であろうか。ちなみに、この持続睡眠療法というものは、十年前には地上に存在しなかったのである。だから疲れ果てたる人間共が、やぶれかぶれに戦争などをやったのである。
アプレゲールの絶望感には最適であるから、カストリを飲む金があったら、精神病院へ旅行するに限るのである。非常に健全無比な旅行なのである。
前大戦アプレゲール派のコクトオ氏なども、前代的絶望感によって、鴉片《アヘン》窟へ通った。これは幻覚をみるから、竜宮の門をくゞることでもあり、その点だけ浦島太郎であるけれども、これは、やめた方がよろしい。幻視とか幻聴というものは、甚しく不安定な絶望感と抱き合せにあるもので、私自身麻薬の経験はないけれども、幻聴幻視になやまされた覚えは肝に銘じているから、こんな癈人的感覚に近代性などのある筈はないのである。
近代はすべからく健全でなければなりません。それぐらいのことが分らなくって、なんて悲しい人々がたくさん居る
前へ
次へ
全5ページ中3ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
坂口 安吾 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング